母本完成!

まずは母本について。
 
母は以前から60歳の記念で本を出版したいと言っていた。もちろん自費出版で、あくまで「記念」に、なわけだけど、その本を私に面倒見ろと言う。正しくは「お願いしますよぅ♡」な感じで言ってきたのだが、正直私は、そのうち熱も冷めるだろうと思っていた。そして、私がうやむやと誤魔化しているうちに、母は昨年60歳を迎えてしまった。
ベタに赤いチャンチャンコを着せ、家族で還暦のお祝いをしたのだが、やはり本の事が気がかりらしい。1冊の本を作るという編集作業を考えると到底やる気にはなれなかったのだが、元気だけれどだんだん皺の増える母の顔を見ていて、これをやり遂げたら目に見える形として親孝行のひとつになるのかな…と思いはじめ、もしなるのだったら取りかかってみるかと。
うーん……しかし自費出版、自分史にありがちな自己満足系なものは、読者からすると苦痛なものが多いのも事実。流通させても売れないのは百も承知だし、それ以前に置いてもらう事すら厳しいことも。だからこそ乗り気ではなかった母本の出版だが、どうやら流通させる気はないらしい。自分自信の記念と、お世話になった人や、近しい人に配りたいとのこと。
30年商売を切り盛りしてきた電気屋のおかみさんではあるが、なかなか不器用なところもあり、感謝の気持ちや本音を伝えるのが下手ところもある母。感謝を伝える手段が自分の本というのが若干気になるところではありつつ、まぁ、そういうことならと思って重い腰を上げてみた。
 
まずはどんな本にしたいのか。
内容も分量においても1冊の本にするような文章がこれから書けるわけもなく、書き溜めていたわけでもない。しかし、10代の頃からの日記を残してあるという。
20歳で結婚し、夫の地元である寄居町で細々とではあるが電気屋を営んできた母。職人の父に可愛がられて育った箱入り娘、世間知らずの娘っ子が結婚して子供をもうけ、子育てに奮闘しながら商売をしてきたという自分の足跡をまとめた自分史にできたらという。
そ、そうですか……。
では原稿は既存の日記で行きましょう、ということが決まり、それからは地味な作業のはじまりはじまり。まずは日記を読み込む(殴り書きの文字を解読するのにはかなり苦労した)。結婚前、多感な若かりし頃の父と母を知る(私は望んではいないのだけれど…)。10代の頃から結婚して今までを要約すると、年中ケンカをしている父と母。この頃から何一つ変わっていないのだな、この人らは…とため息が出るやら、切ないやら。
しかし客観的に観るとなかなか面白い。赤裸々すぎる気もしたが、そこは誰にも見せない体の日記だからまぁいいか。本にするということで、そこは母も覚悟の上らしい。(父は巻き添え)
そんな母本が紆余曲折を経て足かけ2年、やっと完成した次第です。3月3日は両親の結婚記念日であり、60歳の誕生日には間に合わなかったけど結婚記念のお祝いにはなんとか間に合った!内容に一切の偽りはなく、信じがたい事も全て事実です。地元寄居の図書館に1冊置いてもらおうかと考え中でして(可能であれば)、それ以外は千代ちゃんと面識のある方にはお届けされることと思います。兄がイラスト&4コマ漫画担当、妹は編集協力&校正&ほかもろもろと兄妹揃って母の言うことを聞いてみました。

仕事柄今まで書籍の広告物はたくさん作ってきましたが、デザイン&編集、まるっと1冊本を作ったのは初めてのことで、大変なりに身になることも多かった本作り。お前にそんな経験をさせるのもお母さんの狙いだったのよ、と母なら言いそうですが、まぁ、それも事実なので今回は良しとしましょう。

『千代ちゃん』 著者:新井千代子